第26回 通関手続きの苦労



 今回の買付(2004年5月)では、久しぶりにジョンブロードウッドのピアノを見つけることができました。
ジョンブロードウッドは、世界で初めてピアノにペダルを取り付けることを考案したメーカーであり、ベートーベンが愛用したピアノであることで有名ですが、今回見つけたピアノは1910年頃のものと思われます。 (年代については入荷後チャートとシリアル番号で調べる予定ですが)、年代から推定して当然に象牙の鍵盤が使用されています。
この象牙がワシントン条約に違反するため、輸入が難しいのです。

このピアノは当然のことながら、条約発効前に製造されたピアノですが、鍵盤を剥離せず正規に輸入するためには、製造年月日を証明する書類と、輸出国の輸出許可書を当局へ提出し、許可を受けるわけです。
しかしながら、許可が下りるには半年以上待たなければなりません。現地の彼らにその話をすると「 Red tape is teriffic.」(お役所仕事は最悪だ)とぼやかれました。仕方なく私は、ホームステイ先のジャックに、アイロンとタオルと、スクレーパーを用意してくれと頼みました。

 さて私は、ピアノの鍵盤を外し、一本づつ、濡れタオルを用いて、上からアイロンを当て、象牙を取り外しにかかりました。充分に熱したアイロンを当てると、鍵盤の接着に持ちいれられているニカワが溶け出し、鍵盤が浮いてきます。それを指で捲るわけですが、中には、なかなか強情にくっついている物があります、そうした物は、スクレーパーを使って剥がして行きます。全部の85鍵を剥がすのに、およそ2時間ほど掛かりました。

このピアノは交差弦(オーバーストラング)のアップライトでした。

 この時代のピアノはほとんどが垂直弦であって、交差弦の物は、5台に1台くらいで、探し出すのに結構苦労します。欲を言えば88鍵が欲しかったのですが、これがまた古い物では難しい。
ヤフーのオークションに垂直弦の象牙のキーの85鍵のジョンブロードウッドのグランドを500万円もの高額で出品している同業者がいましたが、オーバーホールもせずに、輸入許可も受けずに、この価格とは、ちょっと首を傾げたくなります。

 オーバーホール済みの88鍵の交差弦の物でも、この価格ではいささか高すぎる気がします。現状渡しですと5分の1以下でしょう。案の定、入札は全くありません。

 最近は特に、現地に買付に行かずに、輸入専門の代行業者に輸入を任せ、そこから仕入れて堂々と直輸入と銘打って販売している無責任な業者が増加しているように思われます。そうした業者で購入した家具を、当社に修理して欲しいと依頼されるお客様が時折おられます。
資金力に任せて、多角経営の一環としてアンティーク家具を取り扱うような無責任な売り方は、アンティーク家具屋自身の信用を失墜する物であり、販売した家具にたいしては、最後まで責任を持って欲しい物であります。

 現地へ買付に行っている業者が、輸入にどれだけ苦労をしているか、一般の人にも知ってもらいたい次第です。